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ユーザのニーズ(インサイト)を探る【前編】

2017.03.31. Fri

統計的アプローチと根源的アプローチ

新しいサービスを考える上で、まずは「ユーザのニーズ(またはインサイト)を探ることが大切である」と言うのは、聞き飽きて耳にタコが出来る話ではないでしょうか?

では、ユーザのニーズを探るアプローチとしては皆さんはどのような方法を思い浮かべますか?
大きく分けて下記の2 つに分類されるかと思います。

①統計的アプローチ
アンケート等を用いて多数の意見を収集し、統計することで市場の動向を探る②根源的アプローチ
想定顧客を調査/理解/分析することにより、想定顧客に内存する共通の価値観を探る

リサーチャー(プロジェクトメンバー)の調査/分析による主観的な判断に基づきニーズを探ることは、リサーチャーの力量、対象に対する理解、判断力、経験値に大きく依存し、本ブログの主題である戦略性に欠けるため記事の対象外とします。

ここでは、①統計的アプローチと②根源的アプローチの違いを下記に記載します。

①統計的アプローチ
アンケート等を用いて多数の意見を収集し、統計することで市場の動向を探る

上記①の方法でユーザのニーズを探るためには、統計の基本的な考え方が必要になります。
アンケートを用いてアプローチする場合、下記の事を整理します。

まず、アンケートを用いた調査は、調査対象の全て(母集団)を調査する「母集団調査」と、調査対象の一部(標本)を調べることで調査対象全体を推測する「標本調査」に大別できます。
アプリケーション市場における母集団は、想定するユーザ層全体となるため、一般的には母集団調査をするための人員、工数が確保できず、標本調査を実施します。
実際に統計的アプローチでニーズ調査を行う場合、下記手順で実施します。

  1. 調査対象・調査方法・集計したい内容の検討
    └ 何を知りたいか、どのように調べるか、どのような統計手法を用いるか
  2. 標本設計
    └ 調査対象の母集団がどのように構成されているか?
  3. アンケートの実施
  4. 統計解析/分析
    └ 集計結果を集計、解析し結果をグラフやチャートで可視化し市場の動向を探る

上記のアプローチに対して大きな課題が3つ存在します。

課題1 調査対象者の確保が難しい

アンケート調査を試みる多くの試験者がまず突き当たるのはこの障壁です。
一般的にはマスメディアやオウンドメディアを用いて調査対象者を確保することが多く、もともと調査対象者を抱えていることが大規模なアンケートを実施するための前提条件となります。
統計学的に適切であるとされる試験対象者の人数は下記の方法で概算することができます。

N:母集団の数
E:最大誤差(許容できる誤差の割合)
Z:信頼係数0.95(5%の誤差を許容することを前提とします)における正規分布の値【1.96】
P:予想される母平均の比率
正規分布表 参照 )

上記に定義した変数を用いて標本数nは、

n(適切な試験対象者の人数)=N/((E/Z)^2*(n-1)/(P*(1-P))+1)

と表すことができます。

ここで、Pの値に関して、同様な既存の調査サンプルがある場合はその比率を用い、
参考となるサンプルがない場合は必要な調査対象者数が最大となる0.5(式(P*(1-P))の最大値)を入れます。

通常はE=0.05、Z=1.96で計算するため、母集団Nに実際数値を入れると、調査対象者の適正な人数を把握することができます。

アプリケーションをヒットさせることを目標とするため、ターゲットユーザの数を10万〜1000万人と仮定すると、

N=100000  → n=382
N=1000000  → n=384
N=10000000 → n=384

となります。Nの値がこれ以上増えても適切な試験対象者の人数は384です。
よって、400人程の調査対象者に対しアンケートを実施しなくてはならない事がわかります。

ただし、許容する最大誤差を増やせば試験対象者の人数を減らすことが可能です。

課題2 潜在的なニーズはアンケートに現れづらい。

選択形式のアンケートの場合、選択肢の中に予めユーザのニーズに迫る選択肢を準備しなくてはなりません。

例えば「OLのランチに対するニーズ」を探る時、事前調査により「健康的なサラダを食べたい」「ダイエットに良いカロリー控えめなものが食べたい」「甘いスィーツが食べたい」等の事前に準備した選択肢を選ばせる場合、少なくともその中にOLがランチに欲している手がかりとなる項目が含まれていなくてはならず、事前調査でニーズが絞り込まれていることが前提となります。

では、選択形式ではなく、記述式のアンケートを用い直接ニーズを書き出してもらえば問題は無いと思う方も多いかもしれません。アンケート用紙に自由に記入できる欄を設けて、”ランチに求めることはなんですか?”と聞いた場合、回答者は自分の経験の中から求めることを言語化します。対象者が「あっさりしていて胃もたれしないスープ」と答えた場合、集計者は、「あっさり」「胃もたれしない」というキーワードと、「スープ」という事実データを分けて集計し、解析を行えば求める要素をつかめるかもしれません。

ただし、いくらうまく解析できたとしても、OL自身の気がついている欲求を解析したに過ぎず、OL自身の気がついていないニーズを抽出することはできません。もしかしたら近い将来、OLの間で「ガレット」を求める傾向にあるかもしれません。しかし、「ガレット」を知らないOLにアンケートを実施していてはこの答えにはなかなかたどり着くことができません…。

課題3 行動のきっかけとなる詳細な思考の経緯が読み取りづらい

例えば、上記2の例と同様に、「OLのランチに対するニーズ」を調査するアンケートを実施し、回答者の意見から「あっさりしていて胃もたれしないスープ」というニーズを抽出した場合、「あっさりしていて胃もたれしないスープ」を欲する回答者の背景にある要因が重要となります。
例えば、「あっさり」していることを求めるOLの背景には、仕事の忙しさによるストレスで胃が荒れていることが原因なのか、味の濃い食べ物に飽きてあっさりしたものを求めているのか、運動量が少ないため食欲が無いことに起因するのかによって提供すべきソリューションが異なります。

これらの、回答の背景にある要因を、多くの意見を収集し一つ一つを見極めることは時間/労力の面で難しく、インタビュー等の問答を経て調査対象者と調査実施者が深くコミュニケーションを取ることで、初めてニーズの背景にある要因が見えて来ます。よってそのコミュニケーションを経ることのないアンケート調査ではこれらの要因は見えづらい傾向にあります。